2020年11月9日
パンケーキのおいしさ追求は化学の実験を思い出す

パンケーキ

化学実験の授業を思い出した。
電子はかりの上にボウルを乗せて、小麦粉の量を正確に測ろうとしていたときのことだ。
話は大学時代にさかのぼる。工学部の学生は、教養過程でも化学実験が必須だった。
たしか水曜日の午後だったと思う。
最初に化学式で説明があり、あとは指定された結晶を生成する。言葉にすれば簡単だが、試験管をしっかり洗わなかったり、いい加減な測り方をしていると、目的の結晶が得られない。
先生に見せて合格しないと帰れない。もしくは出席とならないという厳しさだった。
田村君という同級生は、天才的なスピードで実験をこなし、私がノートを見てうんうん唸っている頃、「お先に」と手を挙げて帰っていった。
彼はのちに、航空大学校に入るために中退した。冷静な判断力と行動力の持ち主として、どこかのエアラインで活躍したのに違いない。
私はダメだった。お菓子作りは得意だったけれど、化学実験自体に興味がなく、そのせいか正確性を欠いてしまう。「美味しくなあれ」と呪文を唱える必要はないにしても、何かの思いがないと実験は成功しないものなのだ。
水曜の夜に彼女と約束があろうものなら、なおさら早く帰ろうと焦る。すると、益々うまくいかない。血走った目で、試験管を睨む私を含めた落ちこぼれたち。
かわいそうなのは担当する教官だ。単位を落としたくないと奮闘する学生にせがまれて、定時を過ぎても待っていた。「お前らしっかりやれよ」と祈っていたに違いない。
あれから約40年。初めからうまく、パンケーキが焼けたわけではなかった。
いくつかの条件を変えて、試してみた結果、ようやく自分の理想とする形のものができた。
さらに味を良くしようと原材料を変えると、最初からデータを取り直す必要があった。
店で提供できるラインにはたどり着いたが、これからも改良を続けていくつもり。
大昔wの化学実験の経験がここに生きるとは想像しなかった。
注文を受けてから提供するまで約20分。文系に進学していたら、もっと待たせていたかもしれない。

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