人生の節目はバーにいた。
不本意な異動が発令された日も、個人事業主として届出を出した日も、カウンターに座ってバーテンダーの所作をずっと眺めていた。
その日、どんなことがあったかを自ら語らない。もちろん、目の前にいてシェイカーを振っている彼も詮索しない。
細かい注文を出さなくても、こちらの気持ちを察して、最上の一杯を差し出してくれる。
銀座のバーに通うようになったのは30代後半になってからだ。
それまでお酒といえばウイスキーで、航空会社がマイレッジホルダーのために運営していたサロンで、ロックを飲んでいた。
そこのサービスを担当する女性から「ウイスキーばかりなんてもったいない。銀座にあるいい店を紹介しますよ」と連れて行かれたのが、雑居ビルの地下2階にあるリトルスミスだった。
私の前に立ったのは保志雄一さん。まさか、そこから20年を超えて付き合いが続くとは想像もしていなかった。
残念ながら最初の一杯が何だったかは覚えていない。
だが、甘いだけだと思っていたカクテルが、魔法をかけられたように美味しく、2日と開けず一人で出掛けたことは記憶している。
保志さんが独立して店を出してからも、ずっと追いかけ続け、いまは何かあると銀座の「保志」本店に足を運ぶ。
ところが非常事態宣言の発令を受けて、「保志」は宣言解除まで休業となってしまった。ラストオーダー19時は、バーにとっては致命的だ。一人のファンとして寂しいが、店側としてはそれ以上の身を切られる思いだろう。
でもそれは他人ごとじゃない。カフェテラオも閉店こそしていないが、夜だけではなく昼に来てくれる人も激減している。
そこで思いついたのが、「保志」とのタイアップ。特に懇意にしていた本店総店長の杉谷まさしさんをカフェテラオに招き、カクテルを作ってもらうという企画。名付けて「バー・テラオwith杉谷まさし@カフェテラオ」。
カフェテラオの常連には、本格派のカクテルを気軽に体験してもらう。そして「保志」のお客さんに、カフェテラオを知ってもらうきっかけとなればうれしい。
こんな時だからこそ、前を向いて新しい試みをやっていこうとアイディアを練っている。これはその中のひとつだ。
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