見たかった対岸の風景がまさにあった。
新年2日、3日はカフェテラオでキムバルが開かれた。
仲良くさせていただいている「すし㐂邑」の木村さんが開く恒例の新年会だ。
昨年までは客として、まさに食べ始めを楽しんでいた。
ところが密を避けて実施したいという話になり、私が会場とお酒を提供することになった。
キムバルと聞いていたのに、いつの間にかキムトメグリーノBALに。
日本一旨い天ぷらと言われている「天風良にい留」の新留さんと、食通なら1度は行きたいイタリアンとして知られている「ペレグリーノ」の高橋さんが参加するという。
IH調理のカフェテラオで天ぷらはどうするのか?
パルマの生ハムをスライスするマシンはどうするのか?
いくつもの懸念が頭をよぎる。木村さんは「大丈夫」と笑顔を見せるだけ。
その通り、杞憂に終わった。
弘法筆を選ばず。
新留さんは当店が持っている煮込み用の鍋に油を入れて、IHテーブルの温度をこまめに調整しながら、見事なフキノトウの天ぷらを仕上げた。
最初の一口は、新雪に足を踏み入れたときのような食感。単にサクッとしているのではない。すぐに口の中で形を変えるはかなさをまとっている。香ばしいゴマ油の香りから、少し間を置いてフキノトウが口の中で開く。冬から春へ、印象派の画家が光で巧みに描いた世界を、一口で味わう料理へと進化させている。
高橋さんは生ハムスライサーを持ち込んだ。店に置いてあるのと同じものでは場所を取ってしまう。そこで、日本に上陸したばかりのものを、輸入代理店から取り寄せたのである。フェラーリのような輝きを見せるマシンを短時間で調整して、あの薄く口の中ですぐに溶けてしまう生ハムを再現した。ご機嫌斜めな12気筒エンジンを、あっという間にスムーズな状態に変えるエンジニアのようだった。カフェテラオがイタリアになった瞬間だ。
この二人が長兄として尊敬するのが木村さんである。今回、特に印象に残ったのは牡蠣カレーの手巻き寿司。やはり江戸前ならぬエロ前寿司。ねっとりとした食感と、厳選された海苔のハーモニーがいやらしい。洗濯したてのシーツにくるまって、温もりのある体を抱きしめている妄想に囚われる。これほど人を欲情させる味わいはない。酢飯だけが冷静で、いま自分がベッドの中ではなく、カフェテラオにいることを再確認させるのだ。
また、錦糸町の「鮨 なかがわ」の中川さんも昨年同様、木村さんを支え、裏方をやりながら、玉子焼きをはじめとして多くのメニューを提供していた。これは近いうちに予約を取って店へ行かなければならない。
自分は会場提供だからと最初は気軽に考えていたが、酒はこちらが用意することになった。主役でないのは確かだが、助演であるのは間違いない。一気に緊張が高まり、昨年の12月は試飲の連続だった。迷いながら選んだワイン2銘柄と日本酒2名柄。おかげさまで、多くの方から、みなさんのメニューと、見事なマリアージュだったよと評価をいただき、ほっとした。
客ではなく、いつの間にか舞台に上がっていたわけだ。年上の新人役者とのコラボは、飲食業界の先輩たちからすれば、やりにくかっただろう。だが、勝手な思い込みかもしれないけれど、兄弟とは言えないものの、親戚のおっちゃんぐらいの位置づけに、彼らから認めてもらえたかもしれない。
まだまだ飲食業は嵐の中にある。しかし、新年からこれだけ大きな力をもらえたことをに感謝して、この先の荒波を乗り越えよう。
ご来店くださった方、残念ながら予約が取れなかった方、カフェテラオも多大な刺激を受けて、成長していきます。これからも、どうぞよろしくお願い申し上げます!
キムバル:二子玉川にある寿司店「すし㐂邑」が毎年開いている新年会。
すし㐂邑(きむら):ミシュラン2つ星を獲得している二子玉川の寿司店。長いものでは60日間にわたる熟成によって、素材の魅力を最大限に引き出す手法に定評がある。
天風良にい留:日本一との呼び声が高い名古屋の天ぷら店。食べログ・ランキングは現在全国2位。ミシュラン2つ星を獲得。天ぷらの概念を超える「揚げ技」に全国から客が訪れる。
ペレグリーノ:食通なら一度は味わいたいイタリアンとして知られている。パルマでの修業経験を生かしたイタリア郷土料理。500万円を超える生ハムスライサーを使うなど本物にこだわる。
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